巨大すぎるこの竜は果たして地図に載っているか?
竜のグリオールに絵を描いた男
ルーシャス・シェパード
内田 昌之訳 竹書房文庫
設定からしてすごい。なんと、グリオールという竜は全長が1マイルもあるのだ。帯の文には、「彼の上には川が流れ村があり、その体内では四季が巡る」とある。表紙イラストでも、口の中に道が描かれている。こんな竜、簡単には思いつかないよなあ。
この竜を舞台に、4つの物語が紡がれている。もっとも、連作としてはすべてではなく、まだ数篇あるらしい。残りの短篇も訳してほしいものだ。
ルーシャス・シェパードの作品を英語で読もうと思ったことがあるが、乏しい英語力では歯が立たなかった。多分に文学的。文章は他者が真似できるようなものではない、独特の味を持つ。この点ではレイ・ブラッドベリに通ずるものがあるが、ブラッドベリとは全く違うテイスト。余談だが、ブラッドベリの短篇を英語で読んで仰天したことがある。翻訳では、その独特のテイストは味わえないのだ。原書で読むことの意義を痛感した次第。
この連作は、ストーリーをたどって楽しむというよりは、描写やそれが示すものそのものを味わうのが正しい読み方だろう。竜が登場するファンタジィだが、アクションシーンはなく、血湧き肉躍るような要素はない。まあ、『指輪物語』を読んでいない人が映画『ロード・オブ・ザ・リング』を観て原作を勘違いするのと同じようなものだが、この作品も見た目の派手さからは意外なほど抑制されている。それに、最も感じるのは、登場人物がよく描かれているということ。SFやファンタジィでは貴重な特質だ。
(2019/11/18)