子どもたちのどろどろの世界
エドウィン・マルハウス
スティーヴン・ミルハウザー
岸本佐知子訳 河出文庫
たった十一歳の子供がこんな文章を書けるはずがない。そもそも、こんなに長い文章を書けることなどない。そう思うでしょう? なんたってこの小説は十一歳で夭折した作家エドウィン・マルハウスの伝記をこれまた十一歳の親友ジェフリーが書いたという設定の作品なんだから。
確かに、こんな高度に知的な文章を、子供が書くというのは不自然に感じられる。原書に当たっていないので正確なところは分からないが、原文もたぶん、大人びた内容のものだろう。
しかし、読んでいるうちに、いかにも子供らしい視点で描かれているように見えてくるのが不思議である。うち捨てられた遊園地の描写はまさに子供でなければ書けないようなものだし、子供らしい無邪気さやその反対の残酷さが見え隠れしている。それだけ、作者のスティーヴン・ミルハウザーが天才的ということだ。
それにしても、子供の世界はすごい。純真だの天真爛漫だのと大人は言うが、実際にはそんなことは全くない。ものすごく残酷である。エドウィンにまつわる登場人物のうち、二人が命を落としている。詳しくは作品を読んでいただきたいが、なんともやりきれない。エドウィン自身も悲劇的。何をするにしても、彼は自分自身を追い詰めてしまうようだ。自分に閉じこもったり、他者に対して攻撃的になったり。
個人的にひどく共感したのは、エドウィンが小説を書いていく過程で自分を追い詰め、苦悩するところ。小説を書くということは、抜け出したくても抜け出せない蟻地獄にはまるようなものだ。作者は小説執筆の魔力を十分経験しているのだろう。まさに、命を削る行為。その成果を、心して読み給え。
(2019/11/17)