ショートショート講座8 - Dan Shannon's World

Dan Shannon's World
Dan Shannonlives in Nagoya, Japan, with his wife and so many stuffed animals, such as dogs, elephants, pandas and so on.  He is one of the winners of 1998 The First Internet Bungei Shinjin Award in Japan.  He mainly writes science fiction for adults.  Several magazines have carried his short stories that are now in some anthologies published in Japan.
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8.単純な「笑い」と新鮮な「驚き」

これまで7回にわたって、基本的な考え方からストーリーの展開方法、さらには発想法にいたるまで、いろいろと論じてきましたが、技術論もさることながら、最も重要なのはやはり、あなたがショートショートを書くことによって何を目指すのかということであることは言うまでもないでしょう。

極端な場合、それは単なるお金儲けであっても全くかまわないと、私自身は考えています。芸術の極みを目指すのならいざ知らず、創作そのものを神聖化する必要は全くありません。結果的にいいものが書けるなら、動機はどうでもいい問題です。少なくとも、読者を楽しませてやろうという強い気持ちさえあれば、天賦の才能のあるなしに関わらず、相当のものが書けるはずです。

しかし、いったいどんなふうに読者を楽しませるかという基本姿勢によって、できあがる作品の質やレベルも自ずと変わってくるでしょう。以下はあくまでも私の個人的な考え方に過ぎませんが、締めくくりとして、みなさんに最も伝えたかったことを述べておくことにします。

それは、どんなストーリーを展開するにしろ、どんなオチを持ってくるにしろ、それがその場限りのものに終わるか、読者の心に長く残るか、ということです。

面白いギャグやコントを思いつく才能に恵まれた人もいることでしょう。人を大爆笑させることができる人もいることでしょう。それをそのまま文章化すれば、きっと面白いショートショートになるに違いありません。読者にも歓迎されるはずです。しかし、それが繰り返しの鑑賞に堪えられるかどうか、あるいは他の作品も読みたいという読者の欲求につながるかといえば、必ずしもそうは言えないかもしれません。

結論から申し上げれば、理想的な小説というものは、読む前と後では読者の内面が変化するものだと、私は考えています。大上段に構えた、文字通りの理想論ですが、しかしあくまでも理想として、頭の片隅にあってほしいのです。

人生観や思想に変革を促すような、大きなものでなくてもかまいません。しかし、作品から受けた衝撃や感銘が読者の心に長く残り、ほんの少しでもその人の考え方に影響を及ぼすことができるようなものを目指していただきたいのです。もちろん、私がそんな小説を書けているかと言えば、非常に心許なくはあるのですが。

たかがショートショートにそこまで求めることはないだろうという意見もあると思いますが、私自身は過去に2回だけ、ショートショートを読んで創作スタンスに決定的な変化が生じるほどの衝撃を経験したことがあります。ほんの数枚の作品でも、それは可能なのです。そういった作品は、たとえ何十年経っても読者の心に残るものです。

ですから、同じ読者を楽しませるにしても、どうせならその場限りの「笑い」で終わるのではなくて、人々の心に長く残るような「驚き」を目指していただきたいのです。もちろん、そんなものを量産することは無理ですし、考えすぎれば逆効果にもなってしまいかねませんが、いつも心がけていれば、着眼点も自ずと違ってくるでしょうし、日常からヒントを得るための感受性も高まることでしょう。何より、単なるギャグで締めくくられる作品よりも採用されやすいでしょうし、デビューしたのちも息の長い作家になれるに違いありません。とどのつまりは、同じお金儲けを目指すにしても、作品の質が高いほうがたいていは儲かる、ということです。

しかし、その場限りのギャグではなく新鮮な驚きを読者に与える作品は、ひょっとしたら、かえって非常にシンプルなものかもしれません。考えつくし、捻りに捻って出てくるアイデアではなく、あなたが心の底から書きたいという思いに突き動かされて、気がついたらできあがっていたものかもしれません。あなたの心のなかに、どうしても書かねばならないという必然性、衝動があるかどうか、今一度振り返ってみるのもいいでしょう。それがあれば、技術論なんかは全てぶっ飛んでしまうかもしれません。最初に申し上げたことと矛盾するかもしれませんが、高い創作衝動は本来ならあらゆるものに優先されるものであるはずです。

少なくとも、自分の限界を極めることを目指すような、高い創作姿勢を常に持っていただきたい。偉そうなことを言って申し訳ありませんが、この言葉を皆さんにお贈りして、この講座を終わらせていただくことにいたします。では、がんばっていいものを書き続けてください。
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