ショートショート講座7 - Dan Shannon's World

Dan Shannon's World
Dan Shannonlives in Nagoya, Japan, with his wife and so many stuffed animals, such as dogs, elephants, pandas and so on.  He is one of the winners of 1998 The First Internet Bungei Shinjin Award in Japan.  He mainly writes science fiction for adults.  Several magazines have carried his short stories that are now in some anthologies published in Japan.
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7.三つ巴の対決

第5回でもかなり言葉を費やしましたが、二項対立ではなく「三つ巴」、つまり三つの要素の組み合わせを重要視すべきであるということを、ここらで再び強調しておくことにします。

どうして二つではなく三つなのだという疑問がわくかもしれませんし、特にショートショートではかなり単純化しないと枚数に収まらないので必ずしも適切ではないのではと思われるかもしれませんが、基本的にはやはり三つのものの組み合わせを大事にしていくことが、アイデアの面白さの分かれ目になるだろうというのが、私の持論です。

つまり、「三つ巴」を重要視するのは、あくまでもストーリーやシチュエーションにひねりを利かせるためのものであって、必ずしも作品そのものの構造が三つの要素からなる必要はない、ということです。結果として出来上がった物語は、二項対立であっても全くかまいません。しかし、物語が二つの要素からなるものであったとしても、それを生み出す過程では、とりあえず三つの要素の組み合わせをその土台にしてみることが非常に有効になるのです。

ちょっと抽象的な言い方になってしまって申し訳ないのですが、考えてもみてください。二つの要素を基にアイデアやストーリーを考えようとすると、その二つはたいてい十分に異質なものにはならず、比較的似通ったことになることが多く、そのためにアイデアもありきたりのものになってしまうという結果を招くのです。

例えば、AとBの二要素を導入するとしましょう。しかし、この二つはなかなか異質な、あるいは対立的なものにはなりません。なぜなら、Aを最初に思いついてBをその後から思いついたとすると、自然な思考過程では、BはAから類推されてしまうので、似通ってしまうのです。しかし、これでは十分ではないことに気づき、BからさらにCを思いついたとする。すると、BとCは似通ったものかもしれませんが、AとCを比較すれば、ひょっとしたら十分に異質なものになっているかもしれないのです。

これを「起承転結」に当てはめてみましょう。「起」と「承」は同じAからなるとしましょう。「転」の段階でBを導入することになりますが、BがAとあまりかけ離れたものではない場合、効果的な「転」になることは期待できないでしょう。そこでさらに、Cを考え出して「転」にする。すると、結果的にBは切り捨てられ、ストーリーの構造は二項対立になります。

さらにここに、「結」が来ることになる。しかし、この「結」は、あるいはストーリーのオチは、ほとんどの場合、Aから自然に連想されたものでしかありません。あるいは、Aより先に発想された、作品の大前提ですらあるかもしれません。つまり、これはA’ということになります。

つまり、表面的にA対Cの二項対立であっても、その思考過程ではA対B対Cの三つ巴になりますし、ラストのオチまで含めれば、表面的にもA対C対A’という三つ巴になってしまうのです。Aからそのまま何のクッションもおかないでA’に達するのではあまりにストレートでひねりがありませんから、どうしても「転」の部分に第三の要素を導入しなければならないのです。AとA’にはさまれるこれがBでは、ひねりも十分ではない。そこで、BからさらにCを考え出して、ひねりを利かせることにする。

もちろん、辞書をランダムに開いてでたらめに言葉をピックアップすれば、AとBは全く関連のないものになり、あえてCを導入する必要はないと思われるかもしれませんが、AとBをむりやりくっつけてアイデアやストーリーを考える過程で、このAとBがどうしても接近しあうことになり、結果的に似通ったものに変化していってしまうことがよくあるのです。そのため、どうしてもCという形でクッションを置く必要があるのです。

ごく簡単な例で考えてみてください。たとえば、何らかの理由で顔がひどく変形してしまった男の物語を考えてみましょう。解決策として、あなたはこの男が仮面をかぶることを考える。つまり、A=顔、B=仮面ですが、このAとBはかなり似通っています。そこで、仮面からさらに仮面舞踏会を連想する。つまり、C=舞踏会です。するとどうでしょう、、AとCとは必ずしも関連のない、異質なものの組み合わせになっています。そこであなたは、顔が変形してしまったこの男を、仮面舞踏会にあえて素顔で出席させることにする。周囲の人々は、男が素顔であるとは全く気づかない。その変形した顔を、仮面であると信じて疑わない。さあ、男は殺人を犯すも、浮気性の妻の正体を探るも自由です。ついでに、読者には男の顔が仮面ではなくあくまでも素顔であることはラストまで伏せておくことにしましょうか。ところどころに伏線を張りながら……。ね? 出来上がった物語はあくまでもAとCの二つの要素からなっていますが、思考過程では三つの要素が必要でしたし、仮面と顔が対立していることを考えれば、これは根元的にはあくまでも三つの要素からなる物語なのです。
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