ショートショート講座5 - Dan Shannon's World

Dan Shannon's World
Dan Shannonlives in Nagoya, Japan, with his wife and so many stuffed animals, such as dogs, elephants, pandas and so on.  He is one of the winners of 1998 The First Internet Bungei Shinjin Award in Japan.  He mainly writes science fiction for adults.  Several magazines have carried his short stories that are now in some anthologies published in Japan.
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5.どうやってアイデアをひねり出すか?
記憶が定かではなく、しかも手元に資料がないので確認のしようがないのですが、確かフレドリック・ブラウンが、小説のアイデアをひねり出すのに効果的な方法として、目をつぶってデタラメに辞書を開き、二つの言葉をランダムに選び出して、むりやりそれをくっつけてストーリーを考えてみるという方法を紹介していたのを、昔なにかで読んだ憶えがあります。

しかし、これは決して目新しい方法ではありません。皆さんもご存じの通り、落語の三題噺はまさにこの方法の亜種と言えるでしょう。江戸時代の昔から行われていたということですから、どれだけ落語が洗練されたジャンルか、わかろうというものです。フレドリック・ブラウンの方法のほうが勝っている点があるとすれば、それは言葉の選択に恣意性が働いておらず、ランダムであるというところだけです。逆に三題噺のほうは、言葉を三つにすることによって、「三つ巴」という、いわば捻りやどんでん返しをストーリーに導入することができます。ですから、皆さんが辞書を使ってこの方法を行いたいなら、どうせなら二つではなく三つ言葉を選び出してむりやりくっつけてみてください。

いずれにせよ、わたしたちはこの二つの方法に共通する基本的特徴に注目する必要があります。

それは、いずれも「言葉遊び」の要素を持っている、ということです。

実は私は、日本語というのはあまり言葉遊びが行われにくい言語ではないかと思っています。もちろん、駄洒落やほとんどのオヤジギャグは言葉遊びですが、日常的ではあっても文化的にレベルの低いものと思われていますし、子どもの教育に言葉遊びが正式な形で導入されるということもほとんど聞いたことがありません。しかし、英語ではスクラブルといった非常に伝統的な言葉遊びのゲームもあったりして、文化的にしっかりと根付いています。

その原因はやはり、文字の量の違いにあるようです。つまり、日本語はひらがな、カタカナ、そして漢字と、膨大な量の文字があり、これらを並べ替えて遊ぶなどということは大変なことになってしまうのに対し、アルファベットはたった26文字しかありません。表音文字と表意文字の違いなどを論じはじめるとキリがないのでやめておきますが、言語感覚が土台からして異なるのだということだけは視野に入れておいたほうがよさそうです。

これを考えれば、「言葉遊び」というよりもむしろ「文字遊び」といったほうが正しいかもしれませんが、いずれにせよ、言語感覚を磨くには非常に有効な方法であることは間違いありません。そこで皆さんに提案したいのは、日頃から自分なりの方法で言葉遊びを行い、センスを磨いていただきたい、ということです。

それがショートショートのアイデアとどんな関係があるのだという疑問がわいてくるかもしれませんが、言語感覚の向上は発想能力の向上の土台であることはほぼ間違いないと私は考えています。何しろ、人間は言語で思考しますから。別に映像感覚でもいいのですが、小説が言語から成り立つことを考えれば、言葉を大切にすることができる人が創作において有利であることは言うまでもないでしょう。

とは言っても、難しく考える必要はありません。単なる駄洒落でもいいし、アナグラムでもいいし、性格に合うものを楽しみながら頭の中でこねくり回す習慣が身に付けば、アイデアは自然に出てくるようになるでしょう。

もちろん、即効性は期待できないかもしれません。ひょんな拍子にいろんな言葉遊びを頭の中で自然にやってしまうほど習慣化される必要があるからです。しかし、フレドリック・ブラウンの方法や三題噺のように、比較的簡単に、意外でとんでもないアイデアを思いついてしまうということもたまにはあるでしょう。

そして大切なのは、やはり異質なものの組み合わせを重視するということです。ランダムに行われる言葉遊びでは、これは偶然に頼るほかはありません。従って、言葉遊びのほとんどは本当に「遊び」でしかなく、それによって得られた結果が小説に使える確率はかなり低くなります。ですから、たとえアイデアを思いついたとしても、たいしたことのないものはどんどん切り捨てていく勇気が必要です。もちろん、メモさえ取っておけば、そこからさらに発想を拡げることも可能でしょうが、いちいちメモを取るなんてやってられませんし、まあ、気楽に構えて、本当に頭の中だけの遊びのつもりでやってみてください。表情に出さない限り、どんなにヘンな言葉遊びをしていても、他人にはわかりゃしませんから。

実は私は、頭の中で四六時中、非常に単純なタイプの言葉遊びを行っています。というか、意識しなくても自然にやってしまうのです。目についた言葉などに、ついつい、ある加工を施さずにはいられなくなってしまうのです。これで思いついたアイデアを小説にして原稿料をもらったこともありますし、SFを書くときには惑星や都市、あるいは登場人物の名前を考え出すのに非常に役立っています。しかし、これだけは企業秘密。ここでは公開できません。だいいち、どなたにも有効な方法であるかどうかは分かりませんし。ま、どうしてもということであれば、なんかおごってくれればあなただけにそっと教えてもいいかなとは思っとります。
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