4.たった数枚でも「物語」は必要
いかにショートショートとはいえ、「小説」である以上は、ある程度の物語性は必要となります。簡単に言えば「ちゃんとしたストーリーがあるかどうか」ということになりますが、原稿用紙で1枚未満のような、ごく短いものでもない限り、特に初心者は、まずはきちんとしたストーリーを組み立てることを忘れてはいけません。もちろん、ごく短い作品の場合にも物語性を目指すことは、決して無駄なことではありません。
よく言われることですが、「説明ではなく描写で」ということをしっかり考えなければならない、ということです。前回まででオチとそれを活かすためのシチュエーションについて考えてきたわけですが、考え出したシチュエーションをそのまま説明してしまったのでは興ざめしてしまうことは火を見るよりも明らかです。物語の中で「描写」しなければ、もちろん小説にはなりませんし、だいいちつまらないでしょう。オチは物語の一部なわけですから、さらにその必要性が高くなります。しかし、ラストのオチだけが「描写」で、それまでのシチュエーションが「説明」では、ちぐはぐも甚だしいことにもなりかねない。というわけで、作品全体にわたって物語として描写されることが必要になってくるのです。
もちろん、クロニクルのような叙述形態を取る場合には話は別ですし、ほんの一瞬の場面を切り取るような作品にもこれは必ずしも当てはまらないかもしれませんが、まずはちゃんとストーリーを組み立てることが基本であると考えてください。基本さえ身に付けば、それを破るのもあなたの自由。
物語の組み立てでよく言われるのが、「起承転結」。「序破急」なんてのもありますが、話がややこしくなるのでとりあえず無視しましょう。まさか「起承転結」という言葉を知らないという方はいないと思いますが、ここらで一度、辞書などでその本来の意味を再確認しておくことをお奨めします。
さて、「起承転結」で最も大切なのは、ほとんどの場合、やはり「転」の部分でしょう。「結」は言ってしまえばオチそのものなので、既にオチが決まっている場合、これは考えなくてすみます。その「結」のために準備したシチュエーションを、まずは「起」によってそれをちらつかせ、次に「承」によってそれを明らかにしていくことになりますが、私たちが往々にして忘れがちなのが、この「転」でしょう。極論すれば、ストーリーにひねりを加える、ということになりますが、これがないと作品全体が平板なものになり、たとえ「説明」ではなく「描写」になっていても、やはりつまんないものになってしまうかもしれません。
実際には簡単なことではありませんが、ちょっとしたコツはあります。ここで参考になるのは、意外や意外、論文の書き方です。論文があくまでも物事を「説明」するものであることを考えると矛盾のようにも思えますが、まあ騙されたと思ってしばらく付き合ってやってください。
論文の書き方でよく言われるのは、自分の主張とは反対の意見や事例を提示し、それに対する反証を行うことで、自分の主張の正当性を強固にするというテクニックです。小説においては、これを「転」と考えてみるのです。
つまり、それまでの流れを覆すような展開を持ってくるとか、主人公に敵対したり、反対したりする人物が現れるとか、あるいは障害となる事態が発生するとか。もちろん、実際にはこんなに単純な問題でもないのですが、少なくとも、ひとまず「転」をこうしたかたちで単純に捉えた方が、ストーリーのひねりは比較的に簡単につけることができるようになります。
もっと簡単に言えば、最初に考えたシチュエーションにはなかった要素を、この「転」の部分に持ち込んでみる、ということになります。それは状況の変化でもかまいませんし、「第三」の登場人物でもかまいません。ついでに言うなら、やはり異質なものの取り合わせが大抵は効果的になるでしょう。詳しく説明しようとすると長くなっちゃうのでやめますが。
もちろん、ショートショートという短い形態では、状況にしろキャラクターにしろ、最低限にとどめることが必要でしょう。特にキャラクターには十分に注意すべきです。出し過ぎると収拾がつかなくなるのはもちろん、ついやっちゃいがちなのが、キャラクター同士の会話だけで状況を提示してしまったり、ストーリーを進めてしまったりという失敗です。これではどんなにストーリーを組み立てても、「描写」ではなく「説明」にしかなりません。
ちなみに、最初の方で、クロニクルのような叙述形態や、ほんの一瞬の場面を切り取るような作品ではこの限りではないと言いましたが、実際にはクロニクルでも「転」によって大きくストーリーを動かすことが求められるでしょうし、ほんの一瞬の場面の中にも、効果的に「転」を織り込むことは十分可能でしょう。その感覚はやはり、たくさん読んでたくさん書くことによってしか身につかないのかもしれません。
ただ、ここまで述べてきたことはあくまでも理論、さらに言えば、理想論でしかありません。次回からは、この理想論を現実にするための実践論に移ることにします。
(2019/11/28)